2024/11/21
再生医療は、これまで治療が困難だった疾患に対する新たな治療法として大きな期待が寄せられています。
近年、iPS細胞等の幹細胞研究の進歩により、再生医療の実用化が加速しています。
一方で、再生医療には一定のリスクが伴うことも事実です。
患者の安全を確保しつつ、再生医療を円滑に推進するためには、適切な法整備が不可欠といえるでしょう。
そこで、2014年11月に「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」が施行されました。
本稿では、再生医療等安全性確保法の概要について解説します。
再生医療等安全性確保法は、再生医療等の迅速かつ安全な提供や普及の促進を図ることを目的とした法律です。
具体的には、再生医療等を提供する医療機関や細胞培養加工施設等の基準を定め、国による再生医療等の実施状況の把握と監視を可能にするものです。
再生医療等安全性確保法では、再生医療等技術をリスクの程度に応じて第1種、第2種、第3種に分類しています。
【再生医療等のリスク分類】
医療機関が再生医療等を提供する際は、そのリスク分類に応じて、計画の提出や手続きが求められます。
また、第1種、第2種の再生医療等を提供する際は、あらかじめ、認定再生医療等委員会における審査を受ける必要があります。
再生医療等に用いられる細胞を培養・加工する「細胞培養加工施設」についても、再生医療等安全性確保法で一定の基準が設けられました。
具体的には、構造設備の基準や、作業工程の管理基準などが定められています。
特に、無菌操作区域の設置や、交叉汚染の防止対策は重要なポイントだといえます。
また、細胞培養加工施設の管理者には、一定の経験と知識を有する者を配置することが求められます。
さらに、定期的な教育訓練の実施や、手順書の作成なども義務付けられました。
医療機関が細胞培養加工を外部委託する場合は、これらの基準を満たした施設を選定する必要があります。
再生医療では、患者由来の細胞を採取し、培養・加工して治療に用いることが一般的です。
そのため、再生医療を円滑に進めるには、採取した細胞を適切に保管する体制の整備が不可欠といえるでしょう。
特に、再生医療では、治療に必要な細胞を複数回にわたって採取することが困難なケースも多いです。
そうした場合、初回治療時に採取した細胞を長期的に保管しておく必要があります。
また、再生医療の効果は、治療後の経過観察を通じて評価されることが多いです。
そのため、治療後も一定期間、細胞を保管しておくことが求められるケースがあります。
このように、再生医療の特性を考えると、細胞保管のあり方を検討することは喫緊の課題だといえるでしょう。
それでは、細胞保管を行う際の留意点やルールにはどのようなものがあるでしょうか。
再生医療等安全性確保法では、細胞保管について直接的な規定は設けられていません。
しかし、同法の趣旨を踏まえれば、一定の基準に基づいた細胞保管が求められると考えられます。
再生医療等を行う医師・歯科医師は、細胞の保管状況について把握しておく必要があります。
具体的には、以下のような点に留意することが大切です。
【医師・歯科医師の留意点】
特に、細胞提供者への説明と同意取得は重要なポイントだといえます。
細胞の保管期間や使用目的、廃棄方法などについて、提供者に分かりやすく説明し、文書で同意を得ておくことが求められます。
再生医療に用いる細胞の保管は、信頼できる専門機関に委託することが望ましいといえます。
その際、以下のような点に注目して、適切な保管機関を選定することが大切です。
【細胞保管機関の選定ポイント】
また、細胞の保管施設についても、一定の基準を満たしていることが重要です。
例えば、以下のような点が挙げられます。
【細胞保管施設の要件】
信頼できる保管機関・施設を選択し、適切な管理体制を敷くことは、再生医療の安全性と信頼性を高める上で欠かせません。
医療機関と保管機関が連携し、細胞保管の重要性を共有することが強く求められています。
再生医療の普及に伴い、細胞保管の重要性はますます高まっています。
こうした状況を受け、厚生労働省は「細胞保管に関するタスクフォース」を設置しました。
同タスクフォースでは、再生医療等安全性確保法の施行状況を踏まえつつ、細胞保管のあり方について議論が行われています。
タスクフォースでは、まず 細胞保管に関する基本的な考え方の整理が進められました。
具体的には、再生医療等安全性確保法の趣旨に沿った細胞保管のガイドラインの必要性が確認されています。
また、再生医療等を行う医師・歯科医師や細胞保管機関が遵守すべき事項についても議論が行われました。
特に、安全性の確保と品質管理の徹底、トレーサビリティの確保などが重要なポイントとして挙げられています。
こうした議論の成果は、「細胞保管に関する基本的考え方」としてまとめられる予定です。
再生医療関係者にとって、細胞保管に関する実践的な指針となることが期待されています。
タスクフォースでの議論を経て、細胞保管に関する新たなルール作りが進む可能性があります。
例えば、再生医療等安全性確保法の改正により、細胞保管について直接的な規定を設けることなども検討されるかもしれません。
また、学会等による自主的なガイドラインの策定も期待されるところです。
ただし、ルール作りに際しては、再生医療の発展を阻害しないような配慮も必要となるでしょう。
安全性の確保と研究の促進のバランスをいかに取るかが、大きな課題となりそうです。
いずれにせよ、細胞保管に関する議論は、再生医療の健全な発展に向けた重要なステップだといえます。
タスクフォースでの検討が一つの契機となり、関係者の理解と協力が一層深まることを期待したいと思います。
本稿では、再生医療等安全性確保法の概要と、細胞保管をめぐる課題について解説しました。
再生医療は、難治性疾患に対する新たな治療法として大きな可能性を秘めています。
その一方で、安全性の確保と倫理的な配慮も欠かせません。
再生医療等安全性確保法は、再生医療の適切な提供体制を整備するための重要な一歩だったといえるでしょう。
その成果をさらに発展させるためにも、細胞保管のあり方を検討することが急務となっています。
細胞保管に関するタスクフォースでの議論は、具体的な指針の作成に向けた第一歩です。
今後、関係者の建設的な議論を通じて、実効性の高いルールが策定されることを願っています。
同時に、再生医療等安全性確保法の運用面での改善も引き続き求められるでしょう。
例えば、審査体制の強化や、細胞培養加工施設の監督体制の見直しなどが考えられます。
法の適切な運用と、必要に応じた見直しを進めることで、再生医療に対する国民の信頼を高めることが重要です。
再生医療は、これからの医療を大きく変える可能性を秘めた分野です。
安全性の確保と、研究の促進のバランスを取りながら、着実に発展させていくことが何より大切だと思います。
吹田真一